小川 洋子 ブラフマンの埋葬

ブラフマンの埋葬

ブラフマンの埋葬

 

静謐な文章。緩やかに物語が進行していく。

さて、タイトルにもあるようにブラフマンとは動物である。しかし、明確に種類は記されていない。主人公である「僕」の考察から読み解くと、ブラフマンの正体とはカワウソだろうと推察される。「娘」が森の動物とも言っているし。けれど、カワウソって人間に懐くものなのか? 疑問が残るが、まあフィクションなので深く考えまい。

この物語に名前が出てくるのはブラフマンだけで、あとは便宜上に記されている。碑文彫刻家。レース編み作家とホルン奏者。娘。そして、僕。人は名前があることで感情移入するという。書き手である小川さんはそれを逆手に取っている。その試みは功を奏しているとしかいいようがない。

実際、ブラフマンにどうしようもなく心を動かされる。レース編み作家に軽く殺意を覚えたし、「僕」は彼のことだけを見てればよかったのだ。娘なんてどうでもいいだろう、と思った。単純でごめんなさい。

最後、タイトル通りにブラフマンは死ぬのだが、ここで小川さんは仕掛ける。

見事なまでに対比を描き、深い余韻を残す。

 

いい本でした。

評価は☆☆